最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)134号 判決 1981年4月28日
東京都渋谷区宇田川町二二番二号
上告人
株式会社渋谷西村總本店
右代表者代表取締役
西村敏男
右訴訟代理人弁護士
小林辰重
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号
被上告人
国税不服審判所長
岡田辰雄
右指定代理人
岩田栄一
右当事者間の東京高等裁判所昭和五三年(行コ)第一〇号法人税更正処分審査請求却下処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年七月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小林辰重の上告理由について
本件各審査請求の却下裁決に所論の瑕疵がなく右各処分は相当であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず又は独自の見解を前提として原判決を非難するものであつて、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己)
(昭和五三年(行ツ)第一三四号 上告人 株式会社渋谷西村總本店)
上告代理人小林辰重の上告理由
原判決には法令の解釈適用に誤りがあるので破棄さるべきものである。
1 上告人は、渋谷税務署長が昭和四六年六月三〇日付でした上告人の昭和四四事業年度(昭和四三年一一月一日から同四四年一〇月三一日まで)、昭和四五事業年度(昭和四四年一一月一日から同四五年一〇月三一日まで)の法人税の各更正処分(以下本件各処分という)に対し、昭和五〇年六月九日前記署長へ異議の申立をした。同署長は同年八月二二日右異議申立は、申立期間を経過しているとして却下した。
上告人は同年九月一一日被上告人に対しさらに審査請求をしたが被上告人は昭和五一年一月二七日右審査請求は適法な異議申立を経ていないとしていずれも却下する裁決をした。そこで上告人は右裁決の取消を求めるため本訴を提起した。
2 上告人は第一審において、被上告人のした本件各裁決は次の理由で取消さるべきであると主張した。
すなわち、上告人は前記異議申立については、国税通則法(以下通則法という)第七七条四項にいう正当な理由があるので、本来渋谷税務署長は適法な異議申立として処理すべきであるのに、同条項の解釈を誤り違法に却下したものであるから、被上告人は前記審査請求については、適法な異議申立を経ているものとして裁決すべきであるのに、これまた誤つて却下したものである。
しかして上告人が正当な理由というのは以下述べる事実によるものである。
渋谷税務署長(以下税務署長という)は、昭和四四年一一月二七日付上告人の法人税の青色申告提出承認(以下青色申告という)を取消したのであるが、上告人は右に対し不服の申立をする一方、税務署長の取消処分の公定性を尊重し、また争訟の結果、取消処分が違法と判定されれば、税務署長自ら爾後の処分を是正するものと信じ、前記二事業年度については税務署長が送付してきた白色申告用紙を用いて申告したのである。その後、税務署長は青色申告取消処分は違法であるとの裁判があつたので、昭和四九年一〇月一日職権で右処分を取消した。よつて上告人は、依然青色申告法人であることが確定したので、白色申告用紙を使用したとしても青色申告であるところ、税務署長の本件各処分は青色申告に対する更正処分の要件を欠くことになつたからこれを取消すよう税務署長に請求したが応じないので、前記異議申立の手段を取つたのである。
3 原判決は、上告人の右主張に対し、通則法第七七条四項は上告人のように処分のあつたことを知つており、しかも二月の期間が処分後一年以内に到来する場合には適用がなく、同条三項の問題であるところ、これにも該当しないとする第一審の判示を引用して却下の判決を維持した。
しかし、通則法の右条項を原判決のように解釈しなければならない文理上の根拠はなく、また実際上、処分を知つた場合でしかも処分後一年を経過した場合でも異議の申立を認めないと極めて不合理な場合がある。例えば、通知をうけたが本人が海外にいて家人が受取つた場合、本人が未成年で一年後に裁判所で後見人が選任された場合などである。(上告人の場合は処分後一年を経て裁判があり、異議申立が可能になつた場合である。)
ところで、正当な理由の問題であるが、通則法第七七条六項によると、課税庁が誤つて法定の期間より長い期間を教示した場合、その教示された期間内になされた異議申立は法定の期間を経過していても適法な申立として取扱うべきことを規定している。けだし、やむを得ない理由又は正当な理由があると認められるからである(志場喜徳郎外三名国税通則法精解六八二頁)。
上告人は、税務署長の誤つた青色申告取消に従つて白色申告をしてしまつたのであるから、後に右取消が誤りと判明した以上、上告人に認められていた青色申告法人としての適法な異議申立であると認めるべきである。
誤つた期間教示に従つた場合は、救済され、誤つた処分に従つた場合は救済されないという理由はない。
根本問題は、通則法第七七条をいかに解釈し適用するかである。右条項は課税処分の早期確定と納税者の権利救済との調和をはかつて設けられた規定である。そうだとすると上告人の場合や設例の場合でも同条項の適用がないとすると、それは課税処分の早期確定のみに奉仕し、納税者の権利救済を全く無視する結果となり、ひいては憲法第三二条の裁判を受ける権利を侵害することにもなるのである。
よつて、同条四項を原審のように限定した解釈をせず、具体的事情に則し、正当な理由の有無によつて申立の適否を判定する規定であると解するのが合理的である。
なお、原審は、同条三項は納税者の責に帰し得ない客観的事由がある場合に適用されるものであるところ、上告人の事由はこれに該当しないとした。
しかし上告人が青色申告としての異議申立を処分後二月以内にできなかつたのは前述のように税務署長の青色申告取消処分がされたためであるから、やむを得ない理由があり、同条三項の適用もあるというべきである。
右の次第で原審の通則法第七七条の解釈適用は「……税務行政の公正な運営を図り、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする」通則法の趣旨に相反する解釈適用である。
よつて破棄を免れないものである。